九州大学経済学部 経済史I
10月12日 L03 イギリス東インド会社とインドの植民地化
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出席カードの課題
・授業内容や形式に対する疑問・質問点を書きなさい。
・インドを含む南アジアという地域は,アジア(北東アジアと東南アジア)およびヨーロッパに対して,社会経済的にどのような地域だと位置づけられるか。講義内容やこれまでの世界史・日本史や地理で習った事柄,および昨今の経済状況を念頭に置いて,それぞれ述べなさい。
 (どちらか1つで可)
1.イギリス東インド会社とアジア貿易

(1)イギリス東インド会社(EIC)の設立[1600]
 ・ロンドン商人中心,15年間の独占期間
 ・1航海ごとに資金集積,終了時に元本・利益を分配
 ・アンボイナ事件→平戸閉鎖[1623]→マドラス拠点化

(2)組織と運営
 ・1657~1661年ごろ:永続的資本保有の認可
 ・3管区:マドラス[1639] ,ボンベイ,カルカッタ
   ・総督の駐在,要塞の構築,兵士の駐屯

(3)輸出入品と貿易収支
 ・輸出品:銀の地金
 ・輸入品:黒胡椒→綿製品+茶・生糸・コーヒー
   ・綿織物:ベンガル産,アメリカ大陸へ再輸出
   ・茶:広州での直接貿易[1713]→輸入安定化

2.東インド会社の変質とインドの植民地化

(1)ムガール帝国の弱体化
 ・アウラングゼーブ帝:ムスリム偏向主義,反乱勃発
 ・没後[1707]の治安悪化→EIC,シパーヒーを雇用
 ・ナワーブ(太守)同士の争い→東インド会社が加担
 ・フランス東インド会社の挑戦[1664]
   ・資本拠出:王・親族,貴族,大臣,官僚

―ハーフタイム―

(2)ベンガルの植民地化とイギリスの統治政策
 ・プラッシーの戦い[1757]→フランス,活動停止
   ・EIC,ベンガル州他の徴税権獲得→地代が収入源
 ・政治的不安定地域への武力介入→軍事費の膨張
   ・南部:マイソール戦争,中央部:マラータ戦争
 ・EICの財政危機→インド法[1784]
   ・英政府がEICの民政・軍事・商業を管理

(3)東インド会社統治期インド経済史の修正
 ・従来の解釈:インディゴ,アヘン
   ・生産地-カルカッタ間の直線的流通構造
   ・EICの商業政策に対する過大評価
 ・最近の解釈:米,塩←EICの商取引統制が困難
   ・穀物卸売市場(ガンジ:ganjs)の商業的重要性
   ・現地経済の強固な基盤→政府の独占体制の動揺

(4)イギリス直接統治への方向性
 ・対インド貿易独占権廃止 [1813]
 ・シパーヒーの乱[1857]→EICを解散,直轄統治[1858]
 ※自由貿易論の台頭:アダム・スミスのEIC批判[1776]
   ・貿易独占の障害→資本の不適切な配分
【参考文献】
Chaudhuri, K. N., The Trading World of Asia and the English East India Company, 1660-1760 (Cambridge: Cambridge University Press, 1978).
浅田實『東インド会社』講談社現代新書959,1989年。
神田さやこ「地域[2] 19世紀前半のインド経済」 「過渡期」をめぐる研究動向」,社会経済史学会編『社会経済史学会創立80周年記念 社会経済史学の課題と展望』有斐閣,2012年,所収。
杉山伸也『グローバル経済史入門』岩波書店,2014年。
アダム・スミス(山岡洋一訳)『国富論』下,日本経済新聞出版社,2007年
角山栄『茶の世界史』中公新書596,1980年。
羽田正『東インド会社とアジアの海』(興亡の世界史15)講談社,2007年。
三木さやこ「18世紀末~19世紀前半期におけるベンガルの穀物流通システム ―穀物交易をめぐるインド商人とイギリス東インド会社」,『社会経済史学』第66巻第1号(2000年5月)。
三木さやこ「ベンガル塩商人の活動とイギリス東インド会社の塩独占体制(1788~1836年)」,『社会経済史学』第68巻第2号(2002年7月)。