九州大学経済学部 経済史I
10月26日 L05 徳川時代の対外関係 ―オランダ通詞と対外情報の非対称性―
出席カードの課題
・今回の授業内容や形式に対する疑問・質問点,または感想・批評を書きなさい。
・日本の外交貿易史における中世の博多,近世の長崎を評価しなさい。
・徳川外交における情報の非対称性を,ミクロ経済学における不完全競争市場,ナッシュ均衡,パレート効率性,囚人のジレンマなどの理論と関連づけながら説明しなさい。
 (どちらか1つで可)
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1.中世日本の対外貿易

(1)南蛮貿易と博多商人の役割
 ・銀の生産地:石見・生野銀山→アジアの決済通貨
 ・南蛮貿易【図1】:売り手市場の生糸貿易
 ・博多商人:神屋宗湛・島井宗室(茶人)【図2】
   ・中国人貿易商から購入→戦国大名へ献上,保護
 ・文禄・慶長の役→朝貢貿易システムの見直し

(2)オランダの日本市場参入と糸割符制度
 ・糸割符仲間[1604-55]:生糸貿易の買い手独占化【図3】
  →購買競争の排除,外貨流出の抑制
 ・朱印船貿易:「抛銀(なげかね)」による資金集め
   ・担保:船舶・荷物, 1航海ごとに元本+配当
   ・難船時:元本・配当を払う必要なし(有限責任)

2.徳川日本の外交・貿易と情報の非対称性

(1) 徳川幕府と「日本型華夷秩序」【図4】
 ・琉球:薩摩藩の占領→中国と日本の両属体制
 ・朝鮮:対馬藩の仲介で国交回復→朝鮮通信使の派遣
 ・中国:華夷変態→私貿易の継続
 ・「鎖国」の再検討⇔4つの口:長崎,薩摩,対馬,松前【図5】
 ・閉鎖経済システム→幕府が外交・貿易を独占

―ハーフタイム―

(2)長崎出島とオランダ通詞【図6】
 ・長崎の町人→幕府から任命,世襲 (外交官ではない)
   ・通訳,翻訳,商館長の付添,私貿易品の販売
 ・オランダ風説書:VOC商館長の口頭による世界情報【図7】
  →通詞が和文で執筆,商館長が署名
  ⇒日蘭外交・貿易をオランダ通詞の視点から再評価

(3)出島における対外情報の非対称性モデル【図8~9,史料1~6】
 ・VOCの情報発信
   ・「事実を伝える」⇔「事実を伝えない」という戦略
 ・日本側の情報受信
   ・通詞のフィルタリング→長崎奉行→江戸へ
   ・通詞に望ましい情報:VOCとの継続的貿易を保証
    →江戸に届く情報=VOCと通詞に望ましい情報
    ⇒VOC⇔通詞,通詞⇔幕府に情報の非対称性
 ・オランダ風説書の意義
   ・日蘭間における情報の非対称性を解消する制度
   ・幕府や藩の対外情報収集力に対する積極的評価
     ・長崎聞役→雄藩の家臣が常駐,貿易にも従事
【参考文献】
荒野泰典『近世日本と東アジア』東京大学出版会,1988年。
城戸諒治・齋藤和平・中村真莉・平岡佑基・韓ゴヨ「オランダ通詞を通してみる江戸時代」,鷲崎ゼミナール2期生ゼミ論文『江戸時代の日中・日朝・日蘭関係について』,2011年,所収。
杉山伸也『グローバル経済史入門』岩波書店,2014年。
武野要子編『カラー版福岡 アジアに開かれた交易のまちガイド』(岩波ジュニア新書552),岩波書店,2007年。
速水融・宮本又郎編『経済社会の成立』(日本経済史1)岩波書店,1988年。
松方冬子『オランダ風説書と近世日本』東京大学出版会,2007年。
松方冬子『オランダ風説書』中央公論新社,2010年。