九州大学経済学部 経済史I
12月14日 L10 近世・近代の三井経営史 ―都市特権商人から財閥形成まで―
出席カードの課題
Q1:講義レジュメを印刷(ダウンロード)するとき,どのフォーマットを使用していますか?次の中から選んで下さい。
  (1分割, 2分割, 4分割, 印刷・ダウンロードしない→その理由も答えて下さい)
Q2
・今回の授業内容や形式に対する疑問・質問点,または感想・批評を書きなさい。
・近世から近代に至る三井の所有構造と企業形態について,共通点と相違点を簡単にまとめなさい。
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1.都市商人資本の成長と近代化への対応
(1)徳川期の三井:呉服商と両替商の兼業
 ・三井高利:伊勢松阪出身→江戸で越後屋呉服店開業【図1~図3】
  →両替店併設→幕府の為替御用達商人へ[1690]
 ・所有構造:大元方で,資産と事業を分割せずに共有【図4~図6】
 ・両替商の発展→大名貸や農村前貸金融の実施【図7】
 ・複式簿記(資本計算+損益計算)の黎明期【表1~表2】

(2)幕末・明治前期の三井:商家から企業設立へ
 ・呉服業の大不振→金融業で相殺【図8~図9】
  →明治維新を支持→新政府に会計基立金を提供【図10】
   ・三井銀行[1876]:地租納入のための官金業務【図11】
   ・三井物産[1876]:米穀の買取・販売→三池炭輸出【図12~図13】
 ・三池炭鉱の払下げ[1888]→三井鉱山へ【図14~図16】

―ハーフタイム―

2.工業化路線への転換と財閥への道
(1)1880年代の三井物産と三井銀行
 ・物産:ロンドン支店の開設[1879]
  →企業勃興期:綿紡績機械と綿花を日本へ輸入【表3】
 ・銀行:日本銀行開業[1882]→官金業務から脱却
  →企業勃興期:甘い融資→1890年恐慌で経営難

(2)中上川彦次郞の改革[1891-1901]【図17】
 ・不良債権を整理→芝浦製作所を入手
 ・鐘淵紡績,王子製紙への融資→経営権を掌握
 ・工業部の設立⇔益田孝と対立(物産・鉱山を重視)

(3)財閥化:家族・同族による複数産業を持つ企業集団
 ・三井合名会社の設立[1909]=持株会社化【図18】
   ・三井家同族の限定出資,事業資産の閉鎖的所有
   ・直系会社の株式会社化→傘下事業の有限責任化
【参考文献】
賀川隆行『近世三井経営史の研究』吉川弘文館,1985年。
粕谷誠『豪商の明治 ―三井家の家業再編過程の分析―』名古屋大学出版会,2002年。
三井広報委員会「三井の歴史」ウェブサイト
三井文庫編『三井事業史』本篇第1巻,三井文庫,1980年。
三井文庫編『三井事業史』本篇第2巻,三井文庫,1980年。
三井文庫編『三井事業史』本篇第3巻上,三井文庫,1980年。
三井文庫編『史料が語る三井のあゆみ ―越後屋から三井財閥―』三井文庫発行(吉川弘文館発売),2015年。
宮本又郎・阿部武司・宇田川勝・沢井実・橘川武郎『日本経営史』新版,有斐閣,2007年。
鷲崎俊太郎「江戸の町屋敷経営と不動産収益率の長期分析:1775~1872―三井家両替店請40か所のケーススタディ―」,『経済学研究』第79巻第4号(2012年12月)。
鷲崎俊太郎「三井における東京の不動産経営と収益率の数量的再検討:1872~1891」,『経済学研究』第80巻第2・3合併号(2013年9月)。