九州大学全学共通科目 「文系コア」経済学(木1)
4月25日 L02 徳川日本の外交・貿易関係 ―オランダ通詞と対外情報の非対称性―
1. アジア域内市場とヨーロッパの接近

(1)アジア域内市場と朝貢貿易システム
 ・アジア物産:生糸,陶磁器,香辛料,綿織物,茶
   ・アジアの決済通貨:銀(石見銀山)
 ・華夷秩序:中国の伝統的な国際秩序観
   ・朝貢:諸国→中国皇帝,貢物を献上
   ・冊封:皇帝→諸国の君長,国王に任命
 ・明の海禁:民間の対外貿易を禁止→朝貢貿易
   ・結節点:那覇,マニラ,マラッカ

(2)ヨーロッパのアジア市場参入
 ・情報の非対称性:アジア商人に依存
 ・日本銀-中国生糸の取引→倭寇問題の発生
   ・ポルトガル・スペインの仲介→南蛮貿易

2.徳川日本の国際環境

(1)徳川初期の貿易政策
 ・南蛮貿易:売り手市場の生糸貿易
 ・オランダ東インド会社参入→平戸に商館設置(1609年)
 ・糸割符仲間:生糸市場の買い手独占化
  ・購買競争の排除,外貨流出の抑制

(2)「日本型華夷秩序」の形成
 ・「4つの口」:長崎,薩摩,対馬,松前
 ・琉球:薩摩藩の占領→両属体制
 ・朝鮮:対馬藩の仲介で国交回復→朝鮮通信使
 ・中国:私貿易の継続⇔華夷変態,鄭成功の抵抗
  →琉球・朝鮮ルート:中国産生糸輸入のリスクヘッジ
  →中国に対する自主外交権の主張

―ハーフタイム―

3.オランダ通詞と対外情報の非対称性

(1)「鎖国」は本当に完成したのか?
 ・ポルトガル船来航禁止→オランダ商館の出島移転
   ・ポルトガル船の再来航,宣教師の密入国
   ・ポルトガル-オランダ間の休戦協定

(2)長崎出島とオランダ通詞
 ・オランダ通詞
   ・通訳,翻訳,商館長の付添,私貿易品の販売斡旋
   ・長崎定住の町人→幕府から任命・俸給,世襲
 ・「オランダ風説書」(1666年前後~)
   ・商館長が口頭で語った世界の時事情報
  →「風説書」確立以前の日蘭外交・貿易を,オランダ通詞の視点から再評価

(3)出島における対外情報の非対称性
 A:中国船排除問題→オランダの主張を幕府に届けず
 B:ポルトガル船来航事件→江戸に報告せず
 C:フランス東インド会社の設立→オランダを牽制
 D:リターン号事件→江戸に対外情報を伝達
 ・オランダ東インド会社の情報発信
   ・「事実を伝える」⇔「事実を伝えない」という戦略
 ・日本側の情報受信:通詞のフィルタリング
   ・通詞に望ましい情報:日蘭貿易の継続を保証
   ・オランダ⇔通詞,通詞⇔幕府に情報の非対称性
 ・「オランダ風説書」の意義
   ・日蘭間における情報の非対称性を解消
【参考文献】
荒野泰典『近世日本と東アジア』東京大学出版会,1988年。
城戸諒治・齋藤和平・中村真莉・平岡佑基・韓ゴヨ「オランダ通詞を通してみる江戸時代」,鷲崎ゼミナール2期生ゼミ論文『江戸時代の日中・日朝・日蘭関係について』,2011年,所収。
田代和生「徳川時代の貿易」,速水融・宮本又郎編『経済社会の成立 17-18世紀』(日本経済史1)岩波書店,1988年,所収。
田代和生『近世日朝通交貿易史の研究』創文社,1981年,267頁。
田代和生『倭館――鎖国時代の日本人町』文藝春秋,2002年。
田代和生『新・倭館――鎖国時代の日本人町』ゆまに書房,2011年。
松方冬子『オランダ風説書と近世日本』東京大学出版会,2007年。
松方冬子『オランダ風説書』中央公論新社,2010年。
和辻哲郎「鎖国」,『和辻哲郎全集』第15巻,岩波書店,1963年,所収。
「近世の初めに新しい科学が発展し始めて以来,欧米人は三百年の歳月を費やしてこの科学の精神を生活のすみずみにまで浸透させて行った。しかるに日本民族は,この発展が始まった途端に国を鎖じ,その後二百五十年の間,国家の権力をもってこの近世の精神の影響を遮断した。」(15~16頁)
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