ディスカッション・ペーパー3
「江戸町屋敷経営の収支構造と資産利子率:1695~1754
  ――日本橋小舟町1丁目・犬山屋神戸家」
  『Hi-Statディスカッション・ペーパー・シリーズ』No.231,2008年1月。
  (この論稿のPDFは,一橋大学機関リポジトリ"HERMES-IR"の中にあります。)
 本稿の目的は,名古屋の材木商・犬山屋神戸家が元禄~宝暦期の江戸日本橋に所有した沽券地を事例として,町屋敷経営の収支構造を解明し,商人資本による土地不動産投資の意義を検討することにある。
 当該期の町屋敷経営は,健全な経営形態を示していたが,その実現にあたっては,①経営者の家守が収益最大化とリスク回避を企図したこと,②町人の租税負担が低率・低額・逓減の方向にあったこと,③普請・修復の出費に備えて,地主手取分という「経常利益」を常時蓄積できる体制にあったことを前提とした。このような収支構造によって,はじめて町屋敷経営は収支の黒字を見込むことが可能だった。
 しかし,17 世紀末期~18 世紀初頭における貨幣需要の減退,貨幣改鋳の頻発による三貨相場の不安定化といったマクロ的な経済環境は,都市商人に対して現金から土地へという資産選択の可能性をもたらし,都市不動産への投資機会を一層高めたと推測される。ゆえに,江戸町屋敷に対してはその土地収益性に比して過大な評価が下されるようになり,その資産利子率も大名貸や新田経営と比較すると低率の水準に留まっていた。
 このように,都市部の土地不動産は,本質的に利子所得を期待する資産ではなく,売買自由という性格を活用して資本利得を期待する資産であった点が明らかとなる。
ディスカッション・ペーパー2
「銚子醬油醸造業賃金の再推計:1864~88年――ヤマサ醬油・蔵奉公人」
  『Hi-Statディスカッション・ペーパー・シリーズ』No.225,2007年11月。
  (この論稿のPDFは,一橋大学機関リポジトリ"HERMES-IR"の中にあります。)
 本稿は,銚子醬油醸造業の賃金(吉田ゆり子「醬油醸造業における雇用労働」林玲子編『醬油醸造業史の研究』吉川弘文館,1990 年,所収)について,原データに遡って再集計を行い,幕末・明治期の賃金動向に対して若干の修正を行うことを目的とする。
 同書は,ヤマサ醬油を中心とする銚子醬油醸造業史の一次史料に即した実証的研究であり,吉田論文は,当該産業の雇用労働の実態と変遷を,近世から近代にかけて総合的に考察した点で高く評価されている。とくに,徳川~明治期を連続的に捉えた奉公人賃金の1次データは,その後の賃金史研究に多大な貢献を果たしてきた。しかしながら,現場責任者である「頭」と青年男子を中心とする「若者」の給金に関して,データ上の問題が見られるため,本稿にてその再推計を試行してみた。
 その結果,「若者」については,バイアスの掛かったサンプルを取り除くことで,データの安定性が構築され,「頭」に関しては,役職手当を考慮したことで「若者」との賃金格差が明瞭に観察された。これらのファクト・ファインディングは,幕末期までに下落した実質賃金が,明治期に入ると従来の見解よりも早い回復力を持っており,明治10 年代初期の地方消費市場について,熟練を中心とする階層の購買力が予想以上に高かったことを物語っている。
ディスカッション・ペーパー1
「明治・大正期の都市卸売物価データベース:1885~1920」
  『慶應義塾大学経商連携COEディスカッション・ペーパー』DP2003-023,2004年3月。
  (この論稿のPDFは,慶應義塾大学 経商連携21COEプログラムのサイト内にあります。)
 本研究は,明治・大正期の卸売物価を都市別にデータベース化したものである。従来,物価史は国民国家を単位とする物価指数を推計してきたが,近年,地域単位の工業化・都市化が評価されるにつれて,市場圏ごとに良質な物価統計を作成する必要性が高まっている。本研究は『農商務統計表』に基づく1885~1920 年の卸売物価の集計を目的とし,さしあたって本年度は24 品目・20 都市分の物価統計について検討を行った。

機関リポジトリとは? 機関リポジトリ(Institutional Repository)=IR とは,
機関(大学等)で生産された研究成果(全文)を電子的に保存し,
発信するインターネット上の集積庫のことです。
…… 「HERMES-IR」は一橋大学の機関リポジトリです。」

※ HERMES-IRのサイトより引用