第2回ラスター課題 (2002年12月26日提出)
『東京23区の緑被率に関する考察』

東京23区における
緑地率と緑被率の相違について

鷲崎 俊太郎(経研D3)

問題意識と目的課題1 赤色で表現されているところに植物が存在する理由
課題2 DVIの計算式の意味考察結論参考サイト

 問題意識と目的
 「緑地率」と「緑被率」の相違については、10月10日における臼田助手の講義の際に、既に指摘されたテーマである。そのため、本報告の内容は新鮮なものではないが、GISの演習を通して、改めて実証してみることとしたい。

 課題
 1) false color合成で赤色で表現されているところに植物が存在すると思われる理由
 太陽の放射は、地表の物体で反射および透過、吸収される。また、太陽光は、さまざまな波長の光(電磁波)に分解できる。これらの波長ごとに分解された成分をスペクトルと呼ぶと、物質によってスペクトルが多様であり、可視光に限らず、近赤外の領域でも、反射率が変化することが明らかとなっている。
 この性質を利用して、リモートセンシングでは、複数の波長で記録した成分の画像(マルチスペクトル)を記録することができる。マルチスペクトルにおいて、ある一定の波長の幅を持った波長帯をバンドと呼ぶと、リモートセンシングの光学センサーは、およそ表1の7つのバンドから構成される。
 このうち、バンド3(赤色;可視光)は、活性の高い緑色植物のクロロフィルが吸収する低反射の波長帯で、植物分析の最も重要なバンドの1つであり、バンド4(近赤外)は、植物量に対応し、植生による反射が最も高いバンドである。植物が存在する土壌が赤色で表現されるのは、この性質に由来する。
表1 光学センサーを構成する7つのバンド
バンド 波長(μm) 波長領域 分解能(m)
1 0.45-0.52 青〜緑
(可視光)
30
2 0.52-0.60
(可視光)
30
3 0.63-0.69
(可視光)
30
4 0.76-0.90 近赤外 30
5 1.55-1.75 短波長赤外 30
6 10.40-12.50 熱赤外 120
7 2.08-2.35 短波長赤外 30

 2) 正規化植生指標(NDVI: Normalized Difference Vegetation Index)の計算式の意味
 植物(葉緑素)の反射スペクトルの特徴として、バンド3(赤色)とバンド4(近赤外)の波長帯に注目すると、植物では、反射率がバンド4においてバンド3よりも大幅に増加することが明らかとなっている。これに対して、土壌では若干増加し、水では減少する傾向にある。これらの性質により、バンド4のバンド3に対する比率を求めることで、土地利用における植物・土壌・水の相違を抽出することができる。
 植生指標は、植物の葉の特性を利用して植物の有無や量および活性度を示す指標である。正規化植生指標は、その代表例である。
NDVI=(IR-R)/(IR+R) (IR: 近赤外のバンド; R: 赤色のバンド)
 分子は、近赤外と赤色の波長帯の差で、植物の場合、その反射率の最大化を意味し、分母は、近赤外と赤色の波長帯の和で、植物では、その反射率の最小化を意味する。分子の分母に対する比率を求めることで、植物の葉が多いほど、NDVIの数値は上昇する。

 考察
 東京23区別に見た緑地率と緑被率の分布は、図1-1、図1-2である。
図1-1
図1-2
 図1-1、図1-2の結果より緑地率と緑被率の高低を比較すると、緑地率では、渋谷区・文京区・台東区が最上位に位置するのに対して、緑被率で最上位に位置するのは、千代田区・練馬区・世田谷区である。

 このギャップは、なぜ存在したのか。それを確かめるために、町丁目別に東京都区内の緑地率(赤色のグラデーション)と緑被率(緑色のグラデーション)を求め、前者の分布図に、後者の分布図をオーバーレイ(透過率50%)したのが、図2である。

 図2において、もし、緑地と緑被の土地利用が一致しているのであれば、町丁目のポリゴンは、赤色と緑色が混ぜ合わさった褐色になるはずである。しかし、緑色に近いポリゴンが存在する場合、その町丁目における土地利用は、緑地以外の利用によって、緑被されていることを意味する。
図2
 図2によると、渋谷区・文京区・台東区で緑地率が高いのは、代々木公園、小石川植物園、上野恩賜公園という都内の大公園が存在するためである。換言すれば、23区の緑地率は大きな公園の面積に依存する傾向を持つ。

 反対に、「低緑地率・高緑被率」だった地区は、千代田区千代田、港区元赤坂、江東区豊洲、江東区新砂、江戸川区一之江、大田区羽田空港、世田谷区喜多見、杉並区宮前、練馬区谷原、新宿区白銀町などである。

 それでは、これらの町丁目では、どのような土地利用が成されているのか。図3で検証してみることにする。
図3
 図3は、1994年における町丁目別の土地利用分布に、緑被率をオーバーレイ(透過率50%)したものである。「低緑地率・高緑被率」の地区のうち、千代田と元赤坂は「その他」の土地利用、すなわち、皇室御用地として示される。

 豊洲は、東京ガス豊洲工場の閉鎖後、「ガスの科学館」としてリニューアルされ、緑化が進捗している。新砂には、水処理センターに隣接して新砂運動場や東京女子医大グランドが建設されており、羽田空港でも空港内の緑地化が行われている。このように、緑地でなくても緑被率が高い地区は、商業・業務用地や公共公益施設用地が緑化されている場合がある。

 いまひとつのケースは、寺社用地における緑被率の高さが挙げられる。上記の例では、一之江、喜多見、宮前、谷原において、寺社の集積が顕著である。新宿区の場合には、寺社仏閣のほかに、民間企業のグラウンドも散見される。昨今、大企業における業績不振のため、リストラの一環として、社宅やグラウンドの売却が隆盛であるが、地区内の緑被率維持のためには、グラウンド跡地に高層・中層ビルを乱立させるのは、好ましくないと言えよう。

 結論
 「緑地率」と「緑被率」は、大きく意味合いが異なる。「緑地率」はあくまで地区区内に占める公園として利用されている土地の面積の比率であって、規模の大きさに対してバイアスが掛かった結果となる。
 
 これに対して、「緑被率」は植生が確認された土地の、地区内の土地面積に対する比率を表す。
 
 緑地率が低いにも関わらず、緑被率が高い地区としては、皇室御用地、商業・業務用地や公共公益施設用地の2次利用、寺社仏閣用地が挙げられる。
 
 民間企業のグラウンドは、都区内の緑被率の増加に(あるいは、減少を食い止めるために)貢献してきたが、合理化のために売却されることによって、都心の緑被率低下が危惧される。

 参考サイト
・大阪市立大学理学部地球学教室 升本眞二先生の「GRASSを用いた地理情報システム入門」のサイト
・国土地理院「国土環境モニタリング」のサイト

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