九州大学経済学部 経済史I
11月30日 L08 幕末開港と近代化への課題
出席カードの課題
・今回の授業内容や形式に対する疑問・質問点,または感想・批評を書きなさい。
・欧米側は,通商条約で自由貿易を原則としつつも,居留地制度下でどのような限界を生じていたのか,述べなさい。
 (どちらか1つで可)
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1.幕末日本の「開国」と「開港」
(1)ペリー来航と日本の「開国」
 ・ペリー来航[1853]と日米和親条約[1854]
 ・ 「開国」 =政治・外交関係の締結【図1】
   ①下田・箱館で薪水・食料・石炭の供与【図2】
   ②漂着民の保護,③米国領事の日本駐在を承認

(2)日米修好通商条約と安政の5か国条約[1858]
 ・ 「開港」 =通商関係の締結
   ・朝貢貿易や「鎖国」に対する自由貿易の原則
    ←アロー戦争後の天津条約[1858]を模範【図3】
 ・開港場の限定:横浜【図4~5】・長崎・箱館・神戸・新潟
 ・領事裁判権の承認⇔判決:欧米有利でもない
 ・協定関税制→従価5%の輸出入税(生糸・茶は別)

2.居留地貿易と横浜・長崎
(1)居留地貿易[1859-99]と横浜の重要性
 ・内地通商権の否認【図6】=非関税障壁
  →開港場で外商と内商が取引
 ・情報の非対称性,内商不正のリスク【資料1】→現金決済

(2)横浜の貿易構造【図7】
 ・生糸の輸出:売込商による売手市場【図8】
 ・綿製品・砂糖の輸入:引取商による買手市場【図9】

―ハーフタイム―

  →生糸輸出と綿糸輸入では寡占市場を形成
  ⇒長期的な相対取引の関係,取扱品目の専門化

(3)長崎の貿易構造【図10】
 ・横浜と比べると,貿易額は輸出入とも小規模
  ⇔江戸から離れている分,西南雄藩が貿易に参画
 ・輸出:茶,輸入:武器・弾薬(幕末)→綿織物(維新期)

3.近代化に向けた明治日本の課題
(1)徳川時代までに何が準備できていたのか?
 ・生産物市場:商品作物の栽培(養蚕,綿花,菜種,藍)
  →在来産業の発達(製糸,綿織物,油,染料,醸造)【図11】
  ⇒稀少な外貨獲得産業(生糸,茶)
 ・流通業:全国的流通構造,問屋制ネットワークの形成
 ・豊富な労働力,経済合理的なインセンティブの高さ

(2)徳川時代までに何が準備できなかったのか?
 ・近代産業を育成する技術力【図11(再)】
 ・大半の商家は「個人企業」で,「合本結社」が未発達
  →株式・公社債市場の必要性
 ・金融:都市商人-地方農村間で資金を融通できない【図12】
  →銀行業の必要性
 ・リスクに対するマネジメント:保険(海上,火災,生命)
【参考文献】
井川克彦「明治初期の横浜貿易市場における有力商人とその取引――1876年『横浜毎日新聞』引き取り・売込記事集計」,横浜近代史研究会編『横浜近代経済史研究』横浜開港資料館,1989年,所収。
石井寛治『近代日本とイギリス資本――ジャーディン=マセソン商会を中心に』東京大学出版会,1984年。
杉山伸也「国際環境と外国貿易」,」梅村又次・山本有造編『開港と維新』(日本経済史3)岩波書店,1989年,所収。
並木頼寿・井上裕正『中華帝国の危機』(世界の歴史19)中央公論社,1997年。
西川武臣『ペリー来航――日本琉球をゆるがした412日間』中央公論新社,2016年。
鷲崎俊太郎「明治初期の横浜居留地市場と内外商間取引」,『三田学会雑誌』第99巻第4号(2007年3月)。